はじめに

ご挨拶 / Greetings

パン教室〈パンのあるとき〉を立ち上げてから早2年という年月が経ち,
2023年4月をもちまして,当教室は3年目に突入しました。
ここまで続くとは主宰者も当初は予想だにしていませんでしたが,
これもひとえにご贔屓にしていただいている皆様のお陰です。

パン教室を始めてまだ1年と経たない頃のことでした。
とある女性と食事をしていて,その時に何の仕事をしているのかを訊かれました。
パン教室をやっている,と胸を張って答えると,彼女は迷わずこう切り返しました。
「パンなんか作らなくても買えばいいじゃん」

純真無垢な気持ちから発せられたその台詞に,私は思わず耳を疑いました。
悪気を微塵も見せない彼女を目の前に,私は遣る瀬無い気持ちのまま食事を続けました。
「パン作りを教える身として,私は何を伝えれば良かったのだろうか」
食事を終えて帰路に着く頃,私はわざわざパンを作ることの意味を思案していました。

確かに,現代を生きる私たちは,多種多様なパンに恵まれていて,すぐにアクセスできます。
ベーカリーはもちろんのこと,スーパーやコンビニなど,パンにありつける場所は十分にあります。
あの女性が言ったことも,そういう意味では間違いではないのかもしれません。
パンなんかわざわざ作らなくてもいいし,別に作らなくても生きていけないわけではありません。

だけど,それでも私は,パンを作り続けますし,パンの作り方を教え続けます。
月並みな表現ですが,やはりパン作りには,楽しいと思えるところがたくさんあるからです。
こねるほどに変わる生地の質感,生地が発酵して膨らむ様子,焼き上がった時にオーブンを開けた時の感動。
パン作りには,思わず心が躍ってしまうようなポイントが随所に散りばめられています。

当教室でも,初めてパンを作った多くの方々に「楽しい」と喜んでいただいています。
中にはパン作りが趣味になって家でもパンを作るようになった生徒様もいらっしゃいます。
焼き立てのパンが食べられるのは,パンを作った人だけに与えられる特権です。
そして,それを誰かに贈る喜びもまた,パン作りを知った人にしか味わえないことです。

毎日の生活に寄り添うパンから,誰かにプレゼントしたくなるパンまで。
この教室で,パンを作ること,パンを食べることの喜びにぜひ触れてみてください。
パンがある生活は,楽しい。
パンが作れる生活は,きっと,もっと楽しい。

2023年5月1日


主宰・講師 / Director & Instructor

溝口 大将 (Hiroyuki MIZOGUCHI)

  • 1993年生まれ。
  • 大阪府立阿倍野高等学校普通科を卒業。
  • 大阪市立大学文学部でフランス語を専攻。在学中に「ボカロ部」を設立。
  • 前職はプログラマー。人間関係が無理になり退職。
  • 2021年,大手料理教室「ABC Cooking」にて「ブレッド ライセンス」を取得。
  • 2021年,「パンシェルジュ検定」2級(プロフェッショナル)合格。
  • 2021年,「食品衛生責任者」取得。
  • 2022年,「実用英語技能検定」準1級合格。
  • 著書に『ボカロ部誌 ―VOCALOGUE―』(デザインエッグ社,共著)。